小説作成しました。タイトル:『後ろの私』
タイトル:『後ろの私』

第一章:影の気配
秋の夜風が肌をかすめる帰り道だった。街灯が途切れ途切れに並ぶ狭い通りは薄暗く、時折小さく揺れる木の葉の影が道路をざわざわと這い回っている。
「寒い……」と呟きながら私はコートの襟元を握りしめ、足早に歩を進めた。足音がやけに大きく響き、自分以外の誰かの足音が混ざっている気がして、ふと立ち止まる。背中に冷や汗が伝った。
振り返って見ても誰もいない。ただ自分の影が、アスファルトの上に静かに揺れている。だがよく見ると、足元には街灯とは違う方向から伸びる、もうひとつの影が薄く浮かび上がっていた。
「何、これ……?」
胸が締め付けられるように不安が広がる。私は慌てて家に駆け込んだ。
玄関の鏡に映る自分を見て、ほっと息をつく。しかし鏡の奥の私の瞳は、私の知らない冷たい光を宿しているようだった。
第二章:囁き
それ以来、背中に感じる奇妙な気配が、昼も夜も私に付きまとうようになった。
教室で授業を受けているときも、アルバイト先でお客さんに笑顔を見せているときも、私は何度も首を後ろへ向けそうになる衝動を必死で抑えていた。
(……いる。背中に、誰かが。)
その夜も、私はベッドで眠れずに目を閉じていた。枕に耳を押し付けると、かすかな笑い声が響いてくる。
『もう少しだよ』
甘く囁くような声だったが、それは紛れもなく私自身の声だった。
恐怖で鼓動が速まり、私は布団を強く掴んだ。
(怖い、どうしてこんなことが……。)
背後にいる誰かは、私のそんな感情を楽しんでいるようだった。
第三章:目撃
日曜の午後、美香とお気に入りの喫茶店に入った。淡いジャズの流れる落ち着いた空間は、いつもなら心が和らぐ場所だったが、その日は違った。
向かいに座った美香が不意に視線を私の背後に移した途端、彼女の表情が凍りついた。
「どうしたの?」
「……え?いや、あの……あなたの後ろに誰かいる?」
美香の言葉がゆっくりと頭に染み込む。ぞっと背中が冷たくなり、私は思わず振り返る。もちろんそこには誰もいない。
「……誰もいないけど」
「ううん、確かに見えたの。あなたの背中から顔を覗かせた女の子が……あなたそっくりの。」
その瞬間、全身に寒気が走った。
私は震える手を隠すようにコーヒーカップを握りしめたが、心臓はますます強く乱れていった。
第四章:追跡
その夜から、私は明らかに精神を蝕まれ始めていた。
夜道を歩くときには、私の足音に重なるもうひとつの足音がはっきりと聞こえ、追いかけられているような恐怖に息が詰まった。
「お願い、やめて!」
叫びたい気持ちを必死で抑えながら歩いていたそのときだった。
――ガシッ。
突然、背後から肩を掴まれた。私は心臓が止まりそうなほど驚き、反射的に振り向いた。
目の前にいたのは、私自身だった。
私と同じ服、同じ髪、同じ顔。しかしその表情は冷たく無機質で、まるで私の感情をすべて奪ったような、虚ろな瞳だった。
「あなた……誰?」
喉が詰まったように声が出ない。するとその「もうひとりの私」は、薄い笑みを浮かべながら静かに囁いた。
「あなたよ。でも、もうすぐ私が本物になるから」
――本物?
その言葉の意味が頭の中でぐるぐる回り、私は膝から崩れ落ちそうになった。
第五章:入れ替わり
それ以来、私は日に日に自分を見失い始めた。鏡に映る自分が、私の知らない笑みを浮かべるようになり、周囲の人も「最近あなた変わったね」と頻繁に口にした。
ある朝、目を覚ますと奇妙な感覚が襲った。身体は確かに動いている。なのに私の意識は身体から離れ、背中からそれを眺めているようだった。私は焦って身体を動かそうとしたが、全く言うことを聞かない。
私の視線の先で、私の身体を持つ誰かが鏡に向かって笑っている。
「ありがとう。あなたのおかげで、ようやく表に出られた」
私は叫ぼうとしたが、声にならない。ただ背後で泣き叫ぶ感情だけが、行き場を失ったまま宙を漂っていた。
――お願い、返して……私の人生を!
しかし私の想いを無視して、「もうひとりの私」は笑みを深め、悠然と家を出て行った。
私の意識は身体の後ろに閉じ込められ、永遠に孤独な影として、私自身の人生が奪われるのを見続けるしかなかった。
完
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