🔸第二章:秘密の庭園
「やっぱり、来たんだね」
その言葉が耳に残ったまま、私は彼の方へゆっくりと歩み寄った。
白い花が風に揺れて、ほんの少し、雪が舞うように見える。
まるでこの庭そのものが、夢の続きだった。
「あなた……誰?」
真正面から見た彼は、やはり人とは違う雰囲気をまとっていた。
肌は透けるように白く、銀色の髪は光を弾くように柔らかい。
まるで時間の外にいるみたいに、浮世離れした存在だった。
「名前は……“ユキ”って呼ばれてるよ。昔から」
「……ユキ……」
私が名前を繰り返すと、彼は静かにうなずいた。
そして視線を庭の奥へと向けた。
「ここは“境界”なんだ。夢と現実の狭間みたいな場所。
君が子供のころから何度も夢で見てたのは……きっと、その感覚が呼んだんだよ」
私はしばらく黙ってしまった。理解が追いつかない。けれど、彼の言葉には嘘がないと感じた。
「それにね、君と同じ夢を、僕も何度も見てた。
白い世界で、誰かが僕を呼ぶ夢。声はいつも優しくて、懐かしくて……」
それはまるで、遠い昔に交わした約束のような響きだった。
「じゃあ……あなたも、夢の中にいた“誰か”を探していたの?」
「うん。ずっと、ずっと探してた。……君に会うために」
胸の奥がふっと熱くなる。初対面のはずなのに、どうしようもなく懐かしい気がした。
私たちは、夢の中で何度も出会っていたのだろうか。時間も、名前も、すべてを越えて。
「……この庭園、ほんとに綺麗。まるで雪みたい」
「でしょ? この白い花、〈ユキノハナ〉っていうんだ。真夏にだけ咲く、雪に似た花」
彼が指で一輪をそっと摘む。
白い花びらが、私の手のひらに落ちた。冷たく、やさしい。
「夢じゃないよ。……これは現実だ」
彼の言葉に、私はうなずいた。
——でもそのとき、ふと、風が変わった。
庭園の奥に、かすかに揺れる影。何かが、こちらを見ているような気配。
「……ユキ、この庭園、他にも誰か来るの?」
「いや、ここは……“選ばれた人”にしか見えない場所なんだ。
君以外には、今、誰も……」
そう言いかけた彼の声が、ほんの少し震えていた。
そして、私は気づいた。
この場所には秘密がある。
彼には、言えない何かがある。
——でも、私は知りたい。彼のすべてを。
夏の空が、急に曇ったような気がした。
それでも、私の心ははっきりと彼に向かっていた。
「私、また明日も来ていい?」
「……うん。待ってるよ」
ユキの微笑みは、少しだけ寂しげだった。
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