【最終章:春樹の秘密】
文化祭当日。
美咲の舞台は大成功で、拍手喝采の中、彼女は晴れやかな笑顔を見せていた。
颯太も、委員長として忙しそうに動き回りながら、どこか嬉しそうだった。
遥も、友だちに囲まれて、以前より自然な笑顔を浮かべている。
──僕がかけた言葉が、誰かを救うことができた。
そのことが、何よりも嬉しかった。
でも。
ふとした瞬間、胸の奥に小さな痛みが残っているのを感じた。
僕だって、本当はずっと誰かに言ってほしかった。
「大丈夫だよ」って、「君は君のままでいいんだよ」って。
放課後の誰もいない教室で、僕は窓際に立っていた。
外はオレンジ色の夕陽に包まれていて、まるで世界が金色に染まっているみたいだった。
「……春樹」
声をかけてきたのは、遥だった。
彼女はそっと近づいてきて、僕の隣に立った。
「ずっと気になってたの。春樹も、本当は何か抱えてるんじゃないかって」
僕は笑ってごまかそうとしたけれど、遥は真剣な顔をしていた。
「春樹は、誰かを救う言葉を知ってる。でも……自分のことはどうなの?」
その言葉に、僕は息をのんだ。
「……僕も、ずっと悩んでたんだ」
小さな声で告白する。
「昔、夢をあきらめかけたことがあって。自分なんて何もできないって、思い込んでた」
遥は優しく頷いた。
「それでも、今の春樹がいる。きっとそれは、誰かの言葉に救われたからなんだよね」
──そうだ。僕はあの時、誰かに言われたんだ。
「君は君のままでいい」って。
その言葉が、ずっと心の奥に残っていた。
「……だから今度は、僕が誰かに言葉を贈りたいんだ」
僕はまっすぐ遥を見た。
「魔法みたいな言葉を、少しでも届けたいんだ」
遥は笑った。優しく、あたたかく。
「それが春樹の強さなんだね」
「……うん。そうかもしれない」
教室のドアが開いて、颯太と美咲が顔をのぞかせた。
「春樹ー! 何してるの? 写真撮ろうよ!」
「春樹、ほら、行こ!」
みんなの声が重なって、僕はゆっくりと笑った。
──もう怖くない。
僕は僕の言葉で、誰かを照らすことができる。
それはきっと、誰かのためだけじゃなくて、自分のためでもあるから。
「……よし。行こう!」
笑顔を見せて、みんなの輪に飛び込んだ。
春の光の中で、僕の心には確かにひとつの魔法が灯っていた。
──言葉の魔法は、僕自身を救う魔法でもあるんだ。
(終)
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