1日1日を楽しく生きる

ある日の夏に脳幹出血で倒れ復活日々の日常の日記や最近覚えたてのチャットGPTを使って詩や小説などチャレンジしてます。

短編小説作成しました。タイトル:五月の風は君の髪を揺らす

ミノ711


『五月の風は君の髪を揺らす』【前半】

 五月五日、こどもの日。
 風がやけに心地よくて、僕はいつものように近くの公園に向かっていた。大人になるほど「こどもの日」なんて意識しなくなるけれど、この公園は小さい頃から変わらず、季節の匂いと一緒に記憶を運んでくれる。

 ブランコのきしむ音。すべり台の光沢。芝生のざらつき。すべてが懐かしくて、でも今日は少しだけ違っていた。

 ――君がいたからだ。

 初めて見た女の子だった。
 長い髪が風に揺れて、白いワンピースが光を反射していた。
 ベンチにひとり、文庫本を読んでいた。
 たぶん、僕と同い年くらい。
 気づけば視線を逸らせなかった。

 その瞬間、風が吹いた。
 ページがぱらぱらと舞い、彼女の髪がふわりと宙に踊った。

 僕は思わず、声をかけていた。

「……本、飛びそうだよ」

 彼女は驚いたように顔を上げ、目を見開いた。
 その瞳は、春の終わりと初夏のあいだを映していた。

「あ、ありがとう。風、すごいね」

 彼女の声は、ほんの少し笑っていた。

 名前を聞くまでに、十五分かかった。

「私は、咲良。さくらって読むの」

 ぴったりな名前だと思った。
 春の名残を連れてくるような、柔らかな響き。

 それから僕たちは、公園のベンチで話した。
 本の話。天気の話。お互いの学校の話。

 気がつけば、陽はだいぶ傾いていて、彼女は立ち上がった。

「じゃあ、また。……来年のこどもの日、もし会えたら」

 咲良は、風に髪をなびかせながら、手を振った。

 それから一年、僕はその日を忘れなかった。

 そしてまた、こどもの日。
 信じられないことに、咲良は同じベンチに座っていた。

「……ほんとに来たんだ」

「そっちこそ」

 二人で笑った。
 それからまた、話して、笑って、空を見上げた。
 そして気づいた――僕は咲良に恋をしていた。

 高校に入ってすぐ、偶然彼女と同じ学校だったことがわかった。
 クラスは違ったけれど、同じ通学路を使っていた。

「また、会えたね」

 咲良はそう言って、少しだけ頬を赤くした。

 それがきっかけで、僕たちは毎日一緒に登下校するようになった。
 話すたびに、咲良のことをもっと知りたくなった。



『五月の風は君の髪を揺らす』【後半】

 春が終わりに近づく頃、僕たちはすっかり“いつものふたり”になっていた。

 朝、待ち合わせて一緒に歩く。
 昼休み、たまに中庭でお弁当を食べる。
 帰り道、季節の変化を話しながら、何度も同じ道を歩いた。

 そのすべてが、僕にとって宝物だった。

 でも。

 ある日、校舎の裏で咲良が別のクラスの男子と話しているのを見た。

 笑っていた。
 僕の前では見せたことのない、くしゃっとした顔だった。

 胸がぎゅっと縮んだ。
 別に咲良は僕のものじゃない。
 でも、なぜか、悔しかった。
 悲しかった。

 帰り道、いつもなら隣に並ぶはずの僕は、わざと早歩きで先を歩いた。

「……どうかした?」

 咲良が後ろから声をかけてきた。

「ううん、なんでもないよ」

 強がった声だった。

 咲良は、なにも言わなかった。
 だけどその静けさが、かえって胸に刺さった。

 それから数日、ぎこちない日が続いた。
 話はするけど、どこか距離がある。

 それが耐えきれなくなったのは、5月4日――こどもの日の前日だった。

「咲良、明日……時間ある?」

 放課後の帰り道、僕は勇気を振り絞って言った。

「うん。たぶんあるよ」

「じゃあ、また……あの公園で。会いたいんだ」

 咲良は、少し驚いたように目を見開いた。
 でも、すぐにやさしく微笑んだ。

「うん、わたしも。会いたいと思ってた」

 5月5日。
 朝から落ち着かなかった。

 服を何度も着替えた。髪を整えた。
 鏡の前で何度も練習した。

「好きだ」
「ずっと前から好きだった」

 心臓が爆発しそうだった。

 公園には、去年と同じ風が吹いていた。
 芝生の匂いも、ベンチの位置も、あの日のままだ。

 そして、咲良がいた。

 白いワンピース。長い髪。
 去年と同じ――いや、少しだけ大人びた顔。

 僕はベンチに座り、深呼吸をした。

「来てくれて、ありがとう」

「ううん、わたしこそ……」

 沈黙。風。鳥の声。

 言わなきゃ。今しかない。

「咲良……僕、君のことが好きです」

 風が吹いた。
 咲良の髪が、ふわりと舞った。

 言葉が届くか不安だった。
 でも、咲良は、すこし目を潤ませて、言った。

「……うれしい。わたしも、同じ気持ちだよ」

 その瞬間、世界が音を立てて変わった気がした。
 空の色も、風の匂いも、全部が鮮やかに見えた。

 それからの日々は、ゆっくりと、でも確かに進んでいった。

 僕たちは、友達ではなくなった。
 恋人と呼ぶには、まだ少し照れくさいけど。

 でも、手をつないで歩く帰り道。
 お互いに笑い合う放課後。

 あの日、こどもの日に出会ってから続いてきた風景が、
 やっと一つに繋がった気がした。

 風が吹くたび、思い出す。
 咲良の髪が風に揺れていた光景。
 その隣で、僕はいつも君を見ていた。

 ――そして今、隣にいる。

「ねえ、来年のこどもの日も、一緒に公園に行こうね」

「うん。約束だよ」

 風がまた、やさしく吹いた。
 五月の風は、君の髪を揺らす。
 それは、僕たちの恋の始まりを、ずっとそっと伝えてくれる風――。


🌸 完 🌸