1日1日を楽しく生きる

ある日の夏に脳幹出血で倒れ復活日々の日常の日記や最近覚えたてのチャットGPTを使って詩や小説などチャレンジしてます。

小説作成しました。タイトル:正直者は怒られる

タイトル:正直者は怒られる


🌟あらすじ

地方の寒村・香那町(かなまち)に、若き町議会議員・榊原優一が誕生した。東京からのUターン組である彼は、理想と正義を掲げ、町の課題に真っ直ぐ向き合う。初登壇の議会で、公共事業の不透明な予算、過疎地対策の失敗、高齢化による福祉の限界をストレートに指摘し、町民の前でもそのまま訴える。

しかし返ってきたのは、感謝ではなく怒りと批判だった。
「暗い話をするな」「不安を煽るな」「昔からのやり方に口を出すな」——。
理想の“民意”は幻想だった。優一は孤立し、支持すら危うくなる。

それでも、正直であることは本当に“間違い”なのか?
悩み、葛藤しながらも、彼はある一手を打つ。


第1章:正義の男、帰郷す

 榊原優一が故郷・香那町に戻ってきたのは、三十二歳の春だった。
 大学進学を機に東京へ出て以来、十年以上にわたりIT企業で働き、順調にキャリアを積んでいた。しかし、あるときふとしたニュース記事が彼の心に火を灯した。過疎化と高齢化が進む地方の現実。インフラの老朽化、空き家の増加、財政難に喘ぐ小さな町。それが、彼の生まれ育った町そのものだと知ったのは数日後だった。

 帰郷の決意は思いのほか早かった。数か月後には仕事を辞め、都内のマンションを引き払い、妻と幼い娘を連れて香那町へ移り住んだ。町の様子は、彼が少年のころに見た風景とほとんど変わっていなかった。良く言えば穏やか、悪く言えば停滞——まるで時間だけが取り残されているようだった。

 政治家になるつもりは最初からあったわけではない。しかし、町内の集会に参加し、教育や福祉、農業支援に関する話を聞いているうちに、彼の中で“やるべきこと”が膨らんでいった。気づけば町議会議員選挙に名乗りを上げていた。

 地元の青年団や商工会の後押し、元教師だった母の評判もあり、初出馬ながら見事当選。だが、彼の目には祝福の笑顔の裏に、どこか「様子見」の空気が漂っているようにも映った。

 「どうせ、またすぐに東京へ戻るだろう」
 「綺麗事を言っても、町の現実は変わらない」
 そんな声がないわけではなかった。

 だが、優一は迷わなかった。
 選挙戦のあいだに何度も語った決意を、彼は胸に刻んでいた。

 ——僕は、事実を伝える政治家になる。
 ——耳障りのいい嘘ではなく、必要な現実を伝える政治家に。

 そのために、彼はこの町へ帰ってきたのだ。



第2章:最初の演説

 初めての町議会本会議。
 榊原優一は、胸ポケットに用意した原稿をそっと指で押さえた。呼吸は整っていた。緊張はあったが、怯えではなかった。むしろ、ようやく本当のスタートラインに立てたことへの高揚感の方が強かった。

 議場の席に並ぶのは、年配議員がほとんどだった。最年少の優一が座ることで、そこにわずかな“異物感”が生まれていた。

 「香那町議会、令和六年度第一回定例会を開会いたします」
 議長の宣言に続き、最初の一般質問に立ったのは、他でもない優一だった。

 彼は原稿を見ずに立ち上がる。準備した内容はすでにすべて頭に入っていた。

 「皆様、はじめまして。新しく議員として活動することになりました榊原優一です。今日は、町の未来を本気で考える議論の第一歩として、率直に意見を申し上げたいと思います」

 静寂。誰もが耳を傾けていた。

 「本町の人口は、十年前と比べておよそ三割減少しています。高齢化率はすでに五十五%を超え、介護・医療体制は限界を迎えつつあります。空き家率も年々上昇し、今や四軒に一軒が無人です。これらの現実は、我々が目を背けているうちに加速度的に進行してきました」

 「また、公共事業については、昨年実施された道路整備に1億2千万円が使われましたが、工事箇所の選定基準、施工会社の選定理由には疑問が残ります。町民への説明責任は果たされたと言えるでしょうか?」

 ざわっ——
 議場の空気が、わずかに揺れた。

 「私は批判をしたいのではありません。必要な問いを投げかけたいのです。なぜ、町の経済対策は“前例”に縛られているのか。なぜ、教育や子育て支援には“後回し”の風潮があるのか。これらを変えずして、若者が帰ってくる町にはなりません」

 そこまで言い終えると、彼は議席に視線を移した。年配の議員が腕を組み、目を細めて彼を見つめていた。

 演説は、拍手ではなく沈黙で終わった。

 その夜。
 町の掲示板に投稿されたコメントが、ネット上で拡散され始めた。

 「新しい議員、えらく偉そうに言ってたな」
 「町のことを何も知らないくせに、上から目線」
 「耳障りの悪い話ばかり。もっと希望を語るべきだ」

 翌日から、優一の元には匿名の手紙や電話が相次ぐようになる。

 「あなたの演説、不安になりました」
 「お年寄りが怖がってるんですよ」
 「今まで頑張ってきた人たちを侮辱してるんですか?」

 理想は、思ったよりも脆かった。
 しかし、榊原優一はまだ信じていた——正直であることが、きっと届く日が来るのだと。



第3章:クレームの嵐

 最初の演説からわずか三日で、榊原優一は“問題児議員”のレッテルを貼られることになった。

 朝の郵便受けには、差出人不明の手紙が何通も届いていた。
 そのほとんどが「言いすぎだ」「住民に不安を与えるな」「東京帰りの若造が偉そうに」といった非難の言葉で綴られていた。

 匿名の電話はさらに直接的だった。
 「町を悪く言うな」「お前みたいなのはすぐに辞める」
 中には「子どもが学校で肩身の狭い思いをしてるぞ」と脅しに近い内容も混ざっていた。

 優一は、議員会館の一角にある自分の小さな机に向かいながら、それらの苦情をノートに記録していった。どんな言葉も、切り捨てたくはなかった。

 「正直であることが、こんなにも嫌われるとは思わなかったな……」

 ポツリとつぶやいた言葉に、隣の席で書類を整理していた中堅議員・桜井が顔を上げた。

 「お前、ちょっと張り切りすぎたんだよ。初めての演説で爆弾投げすぎたら、そりゃ皆引くよ」

 「でも、事実ですよ。放置してたら町が——」

 「事実でもな、“言い方”ってもんがあるんだよ。お前は耳の痛い話を正面からぶつけた。それじゃ、誰も聞いてくれないさ」

 言葉に含まれた温度は、冷ややかというより、諦念に近かった。
 桜井は十年選手のベテラン議員であり、地元の青年団とも懇意だった。人を敵に回さず、票を確実に積み上げるタイプだ。

 「町を変えたいと思うのは悪いことじゃない。でもな、住民が“今のままでいい”と思ってるなら、無理に揺さぶるな。そういうのが、政治ってやつだ」

 優一は答えなかった。
 その言葉が間違っているとも言えなかったが、正しいとも思えなかった。

 その週末、町の公民館で開催された住民説明会。
 彼は出席を決めていた。避けていては、正直さがただの独りよがりで終わってしまうからだ。

 開始前、すでに数十人の住民が集まっていた。年配の男女、若い母親、農協の役員、地元商店の店主たち。中には、先日の演説で見知った顔も混じっていた。

 司会の言葉が終わり、マイクが渡された。

 「皆さん、こんにちは。榊原優一です。今日は、先日の議会での発言についてご意見を伺いに——」

 「あなたの言い方、あれはひどい!」
 マイクを持つ間もなく、年配の女性が立ち上がった。
 「私たちは毎日懸命に暮らしてるのに、まるで“全部間違ってる”みたいな言い方をされて……」

 「いや、町を悪く言うのは自由だけど、ああいうのは不安を煽るだけだろう」
 「現実を見てるつもりかもしれんが、町には“心”もあるんだよ」

 非難の声は次々と上がった。
 擁護する声はなかった。かつて彼の演説に拍手してくれた数人も、今は目を伏せていた。

 ——正直に言えば伝わると思っていた。
 ——でも、これは“伝える”ことにすらなっていない。

 会の終了後、帰り際にひとりの老人が近づいてきた。
 小さな体に杖をつきながら、真っ直ぐな目で優一を見上げる。

 「……あんたの言ってること、間違ってはいない。だがな、“正しさ”は時に、人を傷つけるんだよ」

 その言葉は、クレームの嵐よりも、何倍も胸に突き刺さった。



第4章:孤立無援

 説明会の翌日から、町の空気は明らかに変わった。

 優一が商店街を歩くと、あからさまに視線を逸らされる。
 挨拶をしても返されない。
 以前、演説を称賛してくれた青年団の若者も、目を合わせようとしない。

 香那町に戻ってきてから毎朝立ち寄っていたパン屋の店主さえ、「あ、今日はもう売り切れで……」と目を伏せるようになった。棚にはまだいくつも商品が残っていたのに。

 職場である議員控室にも居心地の悪さが漂う。
 書類の山はそのままに、同僚議員の輪に入ることはなくなった。自席に戻るたび、デスクの上に無言のメモが増えていく。

 「住民からの苦情に対し、誠意ある説明を」
 「町の名誉を損なう発言は再考を求む」
 「新人として、まずは学ぶ姿勢を」

 優一はそれらをじっと読み、破りもせずにファイルに綴じた。
 誠意が足りなかったのか。伝え方を間違えたのか。
 けれど、「言わなかったら良かった」とは、どうしても思えなかった。

 夜、自宅に戻ると、妻の美沙が言葉を選ぶように口を開いた。

 「……ねえ、今日、町内会のママたちと話してて……」

 「何か言われた?」

 「直接じゃないけど、“あの議員の奥さん、大変ね”って、そんな空気だった」

 沈黙。リビングの時計の音がやけに大きく聞こえる。

 「美沙、ごめん。負担、かけてるよな」

 「ううん、優一の言ってること、私は間違ってないと思ってる。ただ……それが“届かない”って、つらいね」

 娘は何も知らず、テレビの前でアニメに夢中だった。
 あどけない笑顔に、優一は胸を刺されるような気がした。

 それでも彼は、翌朝また役場に向かった。
 逃げたら、全てが無駄になる気がした。

 昼すぎ、小さな茶封筒が控室のポストに投函されていた。差出人はなかった。中には便箋一枚。

 《私は、あんたの言葉で初めて“この町が危ない”って思った。
  黙ってる人の中にも、感じた人はいると思う。負けるな。》

 優一は手紙を胸に当てて、目を閉じた。
 言葉にできない感情がこみ上げる。賛同は少なくても、ゼロではなかった。

 その日の夜、町の郊外にある小さなバーを訪れた。
 そこで、かつて教育委員会にいたという老人と話す機会を得た。

 「榊原くん。正直でいるのは勇気が要る。けどな、“真実”だけで人は動かん。必要なのは“信じさせる力”なんだよ」

 「信じさせる……力……」

 「正しいだけじゃダメだ。言葉に“温度”がなきゃ、人の心までは届かん」

 優一は、深く頷いた。
 今のままでは、言葉は“声”でしかない。
 これからは、“届く言葉”を探さなければならない。



第5章:真実を語るということ

 翌朝、榊原優一は原稿を破り捨てた。
 これまで演説のたびに丁寧に用意していた原稿。語る内容を練りに練って、数字も引用して、言葉を磨いたその紙束を、自ら手で千切った。

 「書いて伝えるんじゃない。俺は……語るんだ」

 昼すぎ、町の福祉センターで小規模な住民交流会が開かれた。テーマは「地域と未来の対話」。役場が形ばかり主催する、いわゆる“おとなしい”イベントだ。優一も招かれていたが、順番が来るまでは端の席で静かに様子を見ていた。

 進行係が指名する。

 「それでは、議員の榊原さん、お願いいたします」

 優一はゆっくりと立ち上がった。マイクを持たず、そのまま住民たちの輪の真ん中へ歩き出す。

 「皆さん、今日はお時間をありがとうございます。私は、最初の演説で町の課題を真っ直ぐに語りました。でも、それが“届かない言葉”だったこと、今では理解しています」

 ざわめきもなければ、拍手もない。ただ、視線が彼に集まっていた。

 「正しいことを言えば伝わると思っていた。でも、“正しい”だけじゃ、人は動かない。“真実”には温度が必要なんです。今日、僕はその温度を、皆さんの中に見つけたいと思っています」

 一人の若い母親が、小さく手を挙げた。

 「榊原さん、じゃあ……これから何をしたいんですか?」

 優一は答える。

 「“一緒に考える”ことです。町の課題は、誰か一人が正解を持っているわけじゃない。僕が言いたかったのは、“知ってほしい”ってことなんです。今、何が起きていて、何を変えなきゃいけないのか。それを“あなたたちがどう思うか”を、知りたいんです」

 空気が少し、変わった。

 高齢の男性が手を挙げる。

 「……あんた、正直すぎる。でも、嫌いじゃないよ」

 小さな笑いが起きた。

 その日、拍手はなかった。
 でも、誰も顔をそむけなかった。
 言葉は“届いて”いた。

 帰り際、ふと振り返ったとき、何人かが会釈をしてくれた。
 そのささやかな反応が、優一にとっては“信じてもらう第一歩”だった。



最終章:拍手はなくても

 春の風が、町役場の前庭を通り抜ける。
 桜の花は五分咲き。香那町にも、ようやく柔らかな季節が訪れようとしていた。

 榊原優一は、手に一冊の冊子を持っていた。
 表紙には「香那町 まちの課題 白書・住民版」とある。
 彼が中心となって作成した、町の現状と未来についてのわかりやすい冊子。数字だけでなく、住民の声や写真を添えて、誰もが読める言葉で綴った。

 その日、彼は冊子の配布と説明のため、町内の集会所を回っていた。
 特別な演説も、大げさな説得もない。ただ一軒一軒、「読んでみてください」と丁寧に頭を下げながら手渡していく。

 「難しいことはようわからんが……でも、ようやく町のこと、自分のことのように思えたよ」
 そう言って受け取ってくれる人が少しずつ増えてきた。

 議会での立場は相変わらず“少数派”だ。
 議決で勝てることはまだほとんどない。
 だが、それでも優一はやめなかった。

 「拍手はなくても、黙って聞いてくれる人がいる。
  それが希望だ。変化はそこからしか始まらない」

 夕暮れ、最後の一軒を終えて車に戻ると、スマートフォンが震えた。
 画面には、先日出席した説明会で手を挙げた母親の名前があった。

 《今度、保育園の保護者会で、町の話をしてくれませんか?》

 短いメッセージに、優一は微笑んだ。

 それは、小さくて確かな拍手のようだった。